潜在的鉄欠乏症(隠れ貧血)
「時々頭痛やめまいがするけれど、病院に行っても異常が無い。」、「頭痛がするけれど、いつものことだから市販の鎮痛剤を飲んで様子をみよう。」、「少し経てば良くなるし。」 これらの内容に思い当たることがある方は潜在性鉄欠乏症(隠れ貧血)の疑いがあります!酸素の運搬や様々な代謝に関係するミネラルが「鉄」です。多くの日本人(特に若い女性の方)を悩ます不定愁訴の多くは鉄不足が引き金となっていると言っても過言ではありません。最近はテレビやインターネットでも隠れ貧血と呼ばれ、話題にされることが多くなってきました。鉄不足により貧血が起き、めまい・たちくらみが起こることは知られていますが、貧血症状の前から様々な不調が起こることはあまり知られていません。
2つ以上あてはまったら、鉄欠乏かもしれません。
立ちくらみ、めまい、耳鳴りがする | 顔色が悪い |
肩こり、腰痛、背部痛、関節痛、筋肉痛がある | 歯茎の出血、体にアザがよくできる |
頭痛、頭重になりやすい | 口角口唇炎、舌の痺れや赤味がある |
疲れやすい | まぶたのうらが白い |
風邪にかかりやすい、微熱がある | 皮膚が青白く、または黄色っぽくなる |
くしゃみ、鼻水、鼻づまりがある | むくみがある |
のどの不快感がある | しっしんができやすい |
洗髪時、髪が抜けやすい | 爪が割れやすい |
年齢のわりに白髪が多い | 便秘や下痢をしやすい |
冷え性、冷えやすい、寒さに敏感である | 吐き気がする |
食欲不振な時がある | 胸が痛む |
神経過敏、音に敏感に反応する | 脈が早い(頻脈) |
注意力の低下、イライラしやすい | 体を動かすと動機や息切れがする |
寝起きが悪い、または、夜中に目を覚ましやすい | にきびができやすく、治りにくい |
くよくよする、憂鬱になることが多い | 月経異常がある(あった) |
特に月経のある女性・成長期のお子様・男性でも20歳代前半までの方のほとんどは体内の鉄が十分ではありません。
1.特異的な症状:鉄不足によって生じる比較的特徴的な症状
氷食症
氷を無性に欲して、たくさん食べる。
嚥下障害
食事は食べられるのに錠剤やカプセルを飲み込めない。
咽喉頭違和感
いつも喉に違和感を自覚し、病院を受診しても異常が無いと言われた。
一時的な意識障害
朝礼で気を失って倒れて、保健室で休むと改善した女子学生。
むずむず脚
足がむずむずして眠れない。
産後うつ
出産した後にうつ症状が出現した。
スプーンネイル
爪が扁平状、スプーン状になる。
2.非特異的な症状:その他に様々な不定愁訴が生じます。
頭痛
肩こり
めまい
ふらつき
冷え
皮膚、粘膜、爪、髪のトラブル
皮下出血
歯茎出血
脱毛
寝起きが悪い
疲れやすい
3.鉄不足による精神症状
注意力の低下
仕事でミスが多い。学校の成績が下がってきた。
イライラ感
つまらないことでもイライラすることが多い。
抑うつ感
やる気が起きない。
*精神症状が出現した場合、鉄不足を確認せずに抗精神剤を処方されることが多いのです。
4.小児~学童期に起こる鉄不足の症状
知能発達の低下
情緒不安定
注意力散漫
易興奮性
学習能力の低下
授業中の居眠り
身体発育の低下
運動機能の低下
持久力の低下
筋肉疲労
易感染性(免疫機能が低下し、各種病原菌に感染しやすい状況のこと)
いわゆる「発達障害」は、自閉症スペクトラム症(ASD)・注意欠如・多動症(ADHD)・限局性学習症(SLD)・チック症・吃音(どもり)といった障害です。最近は通常学級に在籍する小中学生のうち、数%に発達障害の可能性があるとされています。このような診断をされている中の一部は鉄不足が原因で、鉄の補充により症状が改善される場合もあります。
5.スポーツマンにおける鉄不足
鉄不足があると持久力・瞬発力が低下します。ボクシングなどの格闘技やマラソンなどの激しい運動をするスポーツマンは身体を整えておいてはじめて ベストパフォーマンスを発揮できるのですが、ほとんどの方は体力強化、技術向上と根性論だけで挑みます。これでは上を目指せません。ベストの体調と いう基盤を整えて、さらに技術・戦略、そして体力を高めることによって、初めて結果が出せるのです。
健康診断や一般の医療機関で行う血液検査の項目には、「Hb(ヘモグロビン):血色素量」という項目が必ずあります。Hbは赤血球に存在するタンパク質で鉄を含有しています。Hbの値が<12.0g/dLだと貧血と判断されます。さらに「MCV(平均赤血球容積)」という項目もあり、<80fLの場合に小球性貧血と診断され、鉄欠乏を疑うというのが一般的な医師の診断です。このように、鉄欠乏を調べるためには様々な項目がありますが、鉄欠乏を診断する上での大前提は、Hbが12.0g/dL未満であることです。従って、Hb≧12.0g/dLの場合は「異常無し」と判断されますが、現状では、Hb≧12.0g/dLの場合でも、頭痛やふらつきなどの症状を訴える人が多いのです。一般の血液検査では最低限の項目で疾患を探し出すだけなのです。従って、鉄不足を把握できる項目が十分にありません。脳神経外科の医療機関を受診すると、MRIは必ず行いますが、血液検査を行うところはほとんどありません。他科の医療機関を受診して、血液検査をしても医者に潜在性鉄欠乏症の認識が無いために「異常無し」と判断されます。このようなことで埋もれてしまっているのです。
鉄不足を調べる項目の一つに「フェリチン(貯蔵鉄)」というものがあります。その正常値は、当院が受託している検査センターでは女性の場合、「5.0~157.0ng/mL」となっています。但し、これは疾患をチェックするための基準で栄養障害の基準ではありません。オーソモレキュラー栄養療法としては、「100.0ng/mL以上」を正常と判断いたします。この差が一般診療のみの医師とオーソモレキュラー栄養療法を実践している医師との判断の違いになります。
体内に鉄は約4g存在します。主なものとして赤血球に存在する「ヘモグロビン(Hb)」が約70%、肝臓・骨髄・脾臓・腸管に存在する「フェリチン」という鉄貯蔵たんぱく質が約25%程度分布しています。病気としての鉄欠乏性貧血と診断されるのは「Hb<12.0g/dL」です。ところが、「Hb≧12.0g/dL」であっても、フェリチンが「80.0ng/mL」以下である状況は思った以上に様々な症状が起きることが分かっています。この状況を潜在性鉄欠乏症(隠れ貧血)と呼びます。これは「疾患」ではなく「栄養障害」なのです(ブログ:隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症))。
鉄不足が重度な女性が多いため、食事の改善のみで鉄を充足させることはかなり困難です。鉄を補給するためには現実的にはサプリメントの利用が望ましいと思われます。しかし、鉄のサプリメントの選択においては注意が必要です。
栄養素としての鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。肉や魚の動物性由来のものを「ヘム鉄」、ほうれん草やプルーンなどの植物性由来のものを「非ヘム鉄」といいます。私たちの身体は、食物からこの2種類の鉄を摂取し、それぞれの鉄が腸で吸収され全身に分配されていきますが、鉄の吸収率は低く、ヘム鉄は約23%、非ヘム鉄は約5%とされています。ヘム鉄は「HCP-1(Heme carrier protein 1)」、非ヘム鉄はDMT-1(divalent metal transporter 1)というそれぞれ別の入り口から吸収されます。そして腸管上皮細胞にて「フェリチン(貯蔵鉄)」として貯蔵されます。体内における鉄の吸収は厳密に調整されていて、2つの経路を介してのみ吸収されるということです(ブログ:鉄の吸収経路)。鉄の摂取は過剰になることにより障害を起こす可能性があるため、これ以外の方法で鉄を取り込むことは問題がある場合があります。サプリメントによっては別の経路で取り込むものもありますので十分にご注意ください(ブログ:アミノ酸キレート鉄の弊害)。
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