ビタミンDは消化管での鉄の吸収や代謝、赤血球造血に影響を与えることがわかっています。一方で、含鉄酵素であるシトクロームはビタミンDの合成、代謝やその活性化に関与しています。
以下の論文はビタミンDの不足が鉄の欠乏と関連しているか、また、鉄の欠乏がビタミンDの不足を伴っているかどうかを検討したものです。
健康な女性アスリート（14～34歳）219名を対象としています。ビタミンD不足は、25(OH)D＜75nmol/L=30ng/mL（この論文ではnmol/Lですが、混乱を避けるために以後はng/mLに換算します）と定義しました（ブログ：ビタミンDの単位換算式）。鉄欠乏はフェリチン＜16 ng/mL（この論文ではµg/Lですが、日本で一般的なng/mLに換算しました）と定義しました。
ビタミンD不足群（＜30ng/mL）は全体の53.4%に見られ、ビタミンD欠乏群（<10ng/mL）は1.8%に見られました。鉄欠乏群（フェリチン<16 µg/L）は23.3%に見られ、そのうち、鉄欠乏性貧血群（RBC＜420×104/μL 、Hb＜12.0g/dL、Ht＜37％、）は0.9％に見られました。
(a) ビタミンD充足群（≧30ng/mL）とビタミンD不足群（＜30ng/mL）において
ビタミンD充足群では11%が鉄欠乏でしたが、ビタミンD不足群では32%が鉄欠乏でした。ビタミンD不足群はビタミンD充足群に比べて、オッズ比2.73（95%信頼区間：1.32~5.62 p=0.007）で鉄欠乏が見られました。
(b) 鉄充足群（フェリチン≧16 µg/L）と鉄欠乏群（フェリチン<16 µg/L）において
鉄充足群では48%がビタミンD不足でしたが、鉄欠乏群では75%がビタミンD不足でした。鉄欠乏群では鉄充足群に比べて、オッズ比2.92（95%信頼区間：1.45~6.02 p=0.003）でビタミンD欠乏が見られました。
ここからビタミンD不足と鉄欠乏は関連し合っているということがわかります。ビタミンDと鉄はお互いにそれらの吸収、代謝、機能に大きな影響を及ぼしているということが示唆されます。
【The Association between Iron and Vitamin D Status in Female Elite Athletes】Malczewska-Lenczowska, J. et. al. Nutrients 2018, 10(2), 167; https://doi.org/10.3390/nu10020167
一般診療においては鉄欠乏性貧血と診断された場合は、医師により鉄製剤が処方されます。しかし、鉄製剤は全て「非ヘム鉄」です。非ヘム鉄は吸収過程で活性酸素を発生しやすいので、経口鉄製剤は消化管粘膜を傷害し、嘔気や胃部不快感を起こします（ブログ：鉄の吸収経路）。そのような症状が出現して、経口鉄製剤を使用できなくなったり、経口鉄製剤では十分な鉄を補給できなくなったりすれば、次に注射用鉄製剤を静脈注射するという選択になるのです。注射用鉄製剤は医師による厳密な管理が無いと重篤な肝障害や他の副作用を引き起こします。ですから、大きなリスクを伴う治療なのです。このように医薬品の鉄製剤は経口剤と注射剤共に鉄の補給には適していないのです。しかし、保険診療では他に手段が無いので、そうせざるを得ないのです。
また、非ヘム鉄は吸収率が約5%と低く、ヘム鉄は吸収率が約23％で、非ヘム鉄より吸収率の良いヘム鉄ですら77%程度は吸収されずに腸管を通過して排泄されます。ここで素通りしてくれれば良いのですが、腸管内には鉄を好む悪玉菌がいて、それらに鉄は横取りされて、悪玉菌を元気づける結果になってしまうのです。医薬品の鉄製剤は非ヘム鉄で、先に述べた通り、更に吸収率が悪いため、大量の非ヘム鉄を含有するように作られています。そうすると吸収されずに腸内に到達した大量の鉄は悪玉細菌に餌付けしてしまうことになってしまい、その結果、腸内フローラを乱してしまうことになります。また非ヘム鉄を吸収する玄関口(DMT-1)は亜鉛や銅を同時に吸収するので、大量の鉄により、それらが吸収されにくくなってしまうのです（ブログ：鉄の吸収経路）。こういった理由により、鉄の補給に医薬品の鉄製剤を使用することは望ましくないのです。より生理的、効率的に鉄を補給するためにはビタミンDを適正値に維持しながら、ヘム鉄を服用することです。その上で、腸内フローラを整えて、吸収されずに排泄される鉄を悪玉菌に横取りされないような対応をすれば良いのです。
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