鉄の吸収経路 脳神経外科おたる港南クリニック

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鉄の吸収経路

栄養素としての鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。肉や魚の動物性由来のものを「ヘム鉄」、ほうれん草やプルーンなどの植物性由来のものを「非ヘム鉄」といいます。私たちの身体は、食物からこの2種類の鉄を摂取し、それぞれの鉄が腸で吸収され全身に分配されていきますが鉄の吸収率は低く、ヘム鉄は約23%、非ヘム鉄は約5%とされています。

鉄は生体内では鉄イオンとして存在します。鉄イオンには「Fe2+(2価鉄イオン)」と「Fe3+(3価鉄イオン)」の2種類があります。地球上に生物が誕生した頃の大気中の酸素濃度が低かった頃は、鉄はFe2+(2価鉄イオン)として存在していました。しかし、光合成ができる生物が出現し、酸素を産生することができるようになるとFe2+(2価鉄イオン)は酸化されて、Fe3+(3価鉄イオン)として存在することが多くなりましたが、生体においてはFe3+(3価鉄イオン)を吸収することは困難なため、多くの鉄を吸収するための機構が整えられました。

上の図を見て下さい。この2種類の鉄イオンは両方とも腸管上皮細胞から吸収されるのですが、ヘム鉄と非ヘム鉄では吸収経路が異なります。ヘム鉄はヘムと言われるポルフィリン環にFe2+(2価鉄イオン)が結合したものです。ヘム鉄は「HCP-1(Heme carrier protein 1)」という入り口から2価鉄イオンのまま吸収されます。そして腸管上皮細胞にて「ヘム分解酵素 HO-1(Heme Oxygenase-1)」により分解され、Fe2+(2価鉄イオン)になり、アポフェリチン(鉄と結合していないフェリチン)というたんぱく質と結合して「フェリチン(貯蔵鉄)」となります。一部はヘム鉄のまま、BCRPまたはFLVCRというトランスポーターを介して直接、血中に吸収される経路があるようですが、まだ明らかにされてはいません。

一方、Fe3+(3価鉄イオン)として存在する非ヘム鉄はそのままでは吸収されません。腸管上皮細胞の表面にある十二指腸チトクロームB(DcytB:ビタミンC内因子)によって、Fe2+(2価鉄イオン)に還元されます。すなわち、非ヘム鉄の吸収のためにはビタミンCが必要なのです。また、この時に活性酸素も同時に発生されるので、消化管粘膜が障害されて、消化器部分の不快感などを訴える方も多いのです。Fe2+(2価鉄イオン)を含む非ヘム鉄はDMT-1(divalent metal transporter 1)という入り口から吸収されます。そして、アポフェリチンと結合して、フェリチンとなります。

ヘム鉄の入り口であるHCP-1は鉄のみの入り口ですが、非ヘム鉄の入り口であるDMT-1では鉄以外に亜鉛(Zn2+)や銅(Cu2+)などの他の金属も吸収しています。従って、DMT-1を利用して過剰に鉄を負荷すると他金属が吸収されにくくなり、亜鉛などの他金属の吸収障害が生じるという問題が発生します。医薬品の鉄剤は全て非ヘム鉄です。「服用後気持ち悪くなるので飲めない」という方が多いのは大量のFe3+(3価鉄イオン)をFe2+(2価鉄イオン)に還元する時に同時に発生する活性酸素が消化管粘膜を障害するからです。医薬品は50mg以上の大量の非ヘム鉄を含む製剤のみです。過剰量の鉄は吸収されません。医薬品の鉄剤を服用すると便の色が変わります。これは大量の鉄が吸収されずに便に排泄されているのです。腸にはたくさんの細菌が存在し、中でも悪玉菌は鉄を欲しがっているため、悪玉菌を元気づけるという結果にもなってしまいます。非ヘム鉄の過剰摂取によって腸内フローラ(腸内細菌叢)が乱れてしまうのです。ですから、大量の非ヘム鉄を補給することは理想的ではないのです。しかし、この時にラクトフェリンを同時摂取すると、ラクトフェリンは悪玉菌に鉄を横取りされるのを阻止し、鉄を腸管上皮細胞に効果的に吸収させ、悪玉菌の増殖を抑制する働きをしてくれます。

鉄の吸収を促進する因子は、(1)ビタミンC (2)タンパク質 (3)CPP(カゼインホスホペプタイド)、一方、鉄の吸収を阻害する因子は(1) タンニン(茶、ワイン、柿など) (2) フィチン酸(穀類のぬかや胚芽、玄米など)(3) 食物繊維、があります。つまり、非ヘム鉄の吸収はビタミンCやタンパク質と同時に摂取することで吸収効率が良くなり、お茶、ワイン、柿などのタンニンを多く含むものや玄米などフィチン酸を多く含むものとの同時摂取は鉄の吸収効率を低下させることになりますので、鉄不足で、鉄を補給している方はご留意ください。

食物から吸収されたヘム鉄と非ヘム鉄は腸管上皮細胞内にてフェリチンとして貯蔵され、必要に応じて、腸管上皮細胞に存在するフェロポルチンという出口から血中に移行します。鉄が過剰になると肝臓で産生されるヘプシジンというホルモンがフェロポルチンの発現を抑制して、血中に鉄が移行しないように調節しています。そして、鉄が飽和すると腸管上皮細胞は剥離して、便に排泄されます。従って、ヘム鉄と非ヘム鉄の形態で摂取している限り、生体は鉄の吸収を厳重にコントロールできるのです。血中に移行したFe2+(2価鉄イオン)はヘファスチンという鉄酸化酵素によって、Fe3+(3価鉄イオン)に酸化され、血中ではトランスフェリン(鉄輸送タンパク質)と結合し、全身に分配されます。

ちょっと難しくなりましたが、大切なことは、体内における鉄は厳密に調整されていて、2つの経路を介してのみ吸収されるということです。鉄の摂取は過剰になることにより障害を起こす可能性があるため、これ以外の方法で鉄を取り込むことは問題があるということをご承知おきください。

サプリメントで鉄を補給する際は、出来るだけヘム鉄を選択したほうがよいでしょう。また、非ヘム鉄を摂取する場合でも、Fe3+(3価鉄イオン)よりもFe2+(2価鉄イオン)のものを選択したほうがよいと思われます。

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