労作後倦怠感 脳神経外科おたる港南クリニック

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労作後倦怠感

 「新型コロナウイルス感染後の病的慢性疲労」の患者様も「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」の患者様も労作後倦怠感(Post-exertional malaise[PEM])という現象がみられます。軽い運動や仕事などの生理的ストレスが負荷された数時間~数日後に急激に強い倦怠感が出る現象で「クラッシュ」とも呼ばれています。
 「新型コロナウイルス感染後の病的慢性疲労」の患者様は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が潜在感染をしているヒトヘルペスウイルス6型を再活性化し、嗅球のアストロサイトにうつ病遺伝子である「SITH-1遺伝子」が発現し、「SITH-1タンパク質」が産生されることで、アストロサイトにアポトーシス(自然死)を引き起こし、同時に脳内のコリン誘導性抗炎症経路を障害します。そのため、他の部位から飛火してきた炎症性サイトカインを消火することができずに、脳内炎症が継続することによって「病的慢性疲労」が継続することがわかりました(ブログ:新型コロナウイルス感染後の病的慢性疲労)(ブログ:うつ病の原因遺伝子)
 労作後倦怠感(PEM)は、障害されたコリン誘導性抗炎症経路が回復途上にある時に軽い運動や仕事などの生理的ストレスが負荷されると「elF2αのリン酸化」(ブログ:生理的疲労のメカニズム)が誘導されて、炎症性サイトカインが産生され、脳内に火種が飛んで来た時に、まだ、十分に回復していないコリン誘導性抗炎症経路は対応ができないので、脳内炎症が再発してしまうということです。それと同時に、おさまりつつあるHHV-6の活性化も再燃するために逆戻りになってしまいます。つまり、回復途上に調子が良くなってきてもややしばらくは安静にしておくということが大切なのです。
 これにて、一連の「病的慢性疲労」の話は終わりです。ブログを発信するのに約3か月かかりました(笑)。

【疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた】近藤一博 ブルーバックス:講談社

 この書籍に出会って、4か月間は何度も何度も繰り返し熟読しました。多分、30回以上は読んだと思います。逆にいうとそのくらい読まないと理解できない自分が情けないのですが(笑)。自分は臨床医ですので、この情報をもとにいかに患者様に治療を提供できるのかを熟考しています。今、多くの「新型コロナウイルス感染症関連の病的慢性疲労」の患者様がいらっしゃいます。この一連の情報発信が出口を見いだせずに苦しんでいる方に一筋の光明となれば幸いです。
 東京慈恵会医科大学ウイルス学講座:近藤一博教授の一連のご研究は本当に素晴らしい!医療を根幹から変えるインパクトのあるもので、自分はまさしく「ノーベル生理学・医学賞」候補と思います。以前から行っていた疲労とヒトヘルペスウイルス6型の研究が、今回の新型コロナウイルスの出現により飛躍的に発展しました。自分はこの研究の成り行きをフォローしていこうと思っております。自分も若い頃、このような基礎研究をやってみたかった。とはいえ、盛りを過ぎたロートル医者としてはこの素晴らしい基礎研究を今、苦しんでいる身近な患者様に少しでも還元できるよう、臨床家として研鑽していくのみです。今後の更なる発展を祈念しております。