生理的疲労のメカニズム 脳神経外科おたる港南クリニック

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生理的疲労のメカニズム

 生理的疲労では、疲れたという感覚(疲労感)は体内で産生された炎症サイトカインが脳に働きかけることで生じることがわかっています。同時にヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が活性化した量が、疲労の度合いを表しています(ブログ:疲労を科学する)。東京慈恵会医科大学ウイルス学講座:近藤一博教授らは以前からHHV-6の再活性化を誘導する因子を解明していました。それによればHHV-6の再活性化は「eIF2α」というタンパク質がリン酸化されることにより生じることがわかっていました。

 そこで彼らはeIF2αのリン酸化が炎症性サイトカインを産生するのか検討しました。そしてマウスの実験において、疲労負荷を加えることで、特に肝臓や心臓でeIF2αのリン酸化が促進されて、肝臓で炎症性サイトカインが非常に増加していることを突き止めました。更に、eIF2αリン酸化を抑制する薬剤(ISRIB)を投与すると炎症性サイトカイン産生は低下し、疲労が起こりにくくなることも発見しました。一方でeIF2α脱リン酸化を抑制する薬剤(サルブリナル)を投与するとリン酸化eIF2αは増加し、炎症性サイトカイン産生は上昇し、疲労が増強することもわかりました。このようにして、eIF2αのリン酸化が、炎症性サイトカインを産生し、疲労をもたらすことが証明されたのです。

 アミノ酸不足、ウイルス感染、酸化ストレス、小胞体ストレスなどの様々なストレスに対応して、eIF2αがリン酸化され、それによって細胞は通常のタンパク質の合成を停止すことで機能を停止し、代わりに炎症性サイトカインなど、そのストレスに対応するためのタンパク質を合成します。場合によってはストレスに曝された細胞を死に誘導もします(アポトーシス)。この一連の仕組みを「統合的ストレス応答(ISR)」と呼びます。

 このようにして、疲労によって細胞にストレスが加わると、ISRが細胞機能を停止し、細胞死を誘導し、その代わりに炎症性サイトカインを産生して、これが脳に伝わって疲労感をもたらすというメカニズムが明らかになりました。

【疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた】近藤一博 ブルーバックス:講談社