p53腫瘍抑制因子(以下p53)は細胞のDNAの損傷を修復するタンパク質です。細胞が様々な刺激を受けることでDNAは常に損傷しています。それを検知したp53は濃度を上昇させ修復を行います。その間、細胞の分裂を止め、損傷が深刻な場合にはアポトーシス(細胞死)を誘導し発がんを抑制する働きも持っています。そのタンパク質をコードしている遺伝子をp53遺伝子と言い、このように癌の発生を抑制する作用のある遺伝子を「癌抑制遺伝子」と言います。
p53は悪性腫瘍において最も高頻度に異常が認められているがん抑制遺伝子で、約半数の癌はp53が変異していることが知られています。p53が変異すると抗p53抗体が出現し、相関関係が認められます。つまり、抗p53抗体の出現や組織が抗p53抗体で染色されるということは変異したp53の存在を意味し、癌の存在が示唆されるのです。これを「p53免疫反応性」と言います。
2023年に論文発表した東京慈恵会医科大学の研究チームが行ったアマテラスランダム化臨床試験の結果です。
[対象]消化管がん患者 392 人で平均年齢は66 歳、性別は男性260人(66.3%)、女性132人(33.7%)です。食道がん患者は 37 人(9.4%)、胃がん患者は 170 人(43.4%)、 小腸癌患者 2 名 (0.5%)、結腸直腸癌患者 183 名 (46.7%)です。ビタミンD補給は経口で1日2,000IUを行い、プラセボ群と比較しました。5年経過時点において再発と死亡率を評価しました。抗p53抗体は0.4U/mL以下を陰性、以上を陽性と判断した。組織標本における免疫組織化学的データはp53の発現程度に応じて、順にp53-IHC [3+]、[2+]、[1+]、[0]の4段階に分類しました。
[結果]
p53免疫反応性消化器癌患者(抗p53抗体陽性かつp53-IHC[3+]の80人)において、ビタミンD群では患者54人中9人(16.7%)、プラセボ群では患者26人中14人(53.8%)で再発または死亡しました。
5年無再発生存期間ではビタミンD群は80.9%で、プラセボ群は30.6%であり、ビタミンD群の方が有意に高くなりました(ハザード比=0.27: 95%信頼区間(0.11 -0.61); P=0.002)。 これは、非 p53 患者 272 人の患者とは大きく異なりました。
【Effect of Vitamin D Supplements on Relapse or Death in a p53-Immunoreactive Subgroup With Digestive Tract Cancer: Post Hoc Analysis of the AMATERASU Randomized Clinical Trial.】Kanno K.et.al. JAMA network open. 2023 Aug 01;6(8);e2328886. pii: e2328886.
以前より、ビタミンDと癌の発症率や治療効果などは度々報告されていました。しかし、今までは各種癌全体としての研究結果でしたが、この研究は癌抑制遺伝子がコードする「p53」というたんぱく質の変異を有する癌における再発や死亡の抑制効果を検討したもので、一歩進んだ研究結果です。同じ癌でも「p53」の変異を伴うものはさらに一層のビタミンDによる再発、死亡抑制効果があったという話です。
現在の保険診療における癌治療は、ほとんどが癌細胞に攻撃を加える治療法で、具体的には、手術治療、放射線療法、化学療法などです。しかし、これらの方法は癌細胞と正常細胞の識別を明確にできるわけではないので、やむなく正常細胞も傷害せざるをえないことになってしまいます。その問題に解決の糸口を見出したのは、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生の考案した免疫チェックポイント阻害剤です。この医薬品は癌細胞が生体の免疫機構から逃れる対応をしている状況を解除することにより、本来持つ免疫機構を正常化させ、癌細胞を特異的に攻撃するというものです。本来、癌に対するアプローチはこうであるべきなのですが、保険適応が認められているとは言え超高額です。
癌細胞は若年者であっても、1日3,000~5,000個は発生していると言われています。ではなぜ、若年者は癌になりにくく、高齢者になると癌になることが多いのでしょうか?生体には癌細胞を排除してくれる警官が常時し、体内をパトロールしながらはぐれ者をその都度排除してくれます。ところが高齢になると体内の警官も同様で機能は弱まってきます。その大きな原因を自分は加齢に伴うビタミンDをはじめとする様々な栄養素が不足して累積してくるからだと思っています。もちろん、ビタミンDだけのことではありませんが日本全国民の98%がビタミンD不足の状態にあり(ブログ:日本国民の98%がビタミンD不足)、(ブログ:北海道民のビタミンD血中濃度)、日本国内における比較においても、緯度の高い北海道や東北における癌死亡率が高い(ブログ:北海道におけるがん死亡率)という事実を踏まえると、ビタミンD血中濃度を適切なレベルに維持しておくことは癌の予防や治療において非常に大切なことであろうと思います。ところが保険診療だけを行っている大病院の医師はその重要性をほとんど認識していないと思われます。ビタミンD血中濃度を適正値に維持することは何も問題はありません。ビタミンDの摂取過剰の心配については適当量を摂取しながら適切なモニタリングをすることで100%回避することができます。
癌と戦っている患者様、ビタミンDを適正値まで摂取すること抜きにベストパフォーマンスはありません。同じ癌、同じステージであっても、コントロールのできている人もいれば、そうでない方もいます。それはその患者様の免疫力の違いによるものなのです。免疫力は栄養状態によって大きく変わります。ビタミンD血中濃度は免疫力を簡単に数値化できる良い指標です。保険診療の治療に加えて、不足しているビタミンDを充足させ、適正範囲を維持することを行って下さい!
今、ご健康な皆様、この先に備えて、不足しているビタミンDを充足させた状態で、ご自分の健康診断を受け体調管理をすることが大切です。ビタミンDを適正範囲に維持することは健康長寿の1丁目1番地です!「日本全国民、D活!」こうすればかなりの疾患は減り、医療費の削減につながり、医療機関は儲からなくなるでしょう。今はそれに気づかない人がほとんどですからしばらくは変わらないでしょうね。だから、気づいた人だけが実践するしかないのです。
実は、ビタミンDはもちろんのこと、その他に保険診療で行われていない補完・代替療法で、大病院の保険診療でその後の手段が無く緩和療法を勧められた、進行した癌患者を救っている医師は全国にはいるのです。皆さんが知らないだけです。大病院で手を尽くしたという時点以降でも、やれるべき治療はたくさんあります。以前は自分も知りませんでしたし信用していませんでした。治療も保険適応外になり、自由診療となるため(ブログ:自由診療)、「患者の弱みに付け込んで儲けようとしている医者」だと思っていました。しかし、それは単なる民間療法でなく、科学的に裏付けられた根拠の下で行っているものだということを学ぶことで、その自分が今は自由診療で補完・代替療法を行うことになろうとは!医師として大変やりがいのある仕事です。大学病院の先生には絶対にできません。大学で最先端の医療を実践したいと思っていた自分でしたが、縁がなく地方の一開業医という立場に置かれたことを悲観した時期もありましたが、ここにきて、この立場でなければできないと確信した今、残された医師としての人生をこの分野で頑張ってみようと思っております。