「がん」は、1981年以降、日本人の死亡原因の第一位です。統計上、日本人の2人に1人が生涯に一度はがんに罹患し、4人に1人はがんで亡くなり、がんはもはや国民病と言われています。単純に計算すると、罹患患者の半分はがんで死亡していることになりますが、がんと一口に言っても、その悪性度は千差万別です。進行スピードが速いがんは悪性度が高く、宿主を死へと追い込むものもありますが、進行スピードが遅いがんは長い間共存していくことができます。その違いはどこにあるのかというと、悪性度の高いがんには高頻度で「がん抑制遺伝子:p53」に変異が存在していることがわかっています。
「p53がん抑制遺伝子」にコードされているタンパク質を「p53タンパク質」と言います。
正常細胞には正常なp53タンパク質が存在し、次のような働きをします。
p53タンパク質は核内基本転写因子です。p53タンパク質が核内で様々な遺伝子のプロモーター領域に結合することにより、その下流の遺伝子の発現を制御するのです。それによって多くの遺伝子群の発現に関与し様々な機能を持っています。
様々な外的刺激や、細胞分裂の際にある一定の頻度で発生するコピーミスにより、細胞のDNAは損傷しますが、p53がん抑制遺伝子が正常な場合は、DNA損傷が軽度であれば、p53タンパク質はDNA修復に関与する遺伝子のスイッチを入れて、様々なDNA修復を担うタンパク質が発現・修復をし、DNA損傷が重度であれば、アポトーシス(自然死)を促す遺伝子を活性化し、アポトーシスを誘導します。このように、DNA損傷を受けてもp53タンパク質が正常である場合は、正常なp53たんぱく質が産生され活性化されるので異常を修復したり、淘汰したりして、異常な細胞を排除してくれるのです。このようにがんの発症に対してブレーキとして働くp53タンパク質をコードしている遺伝子を「p53がん抑制遺伝子」と言います。
p53タンパク質が活性化するタンパク質の一つに「MDM2タンパク質」があります。これはp53タンパク質が活性化され増えてきた時には過剰にならないように、p53タンパク質を分解する役割を持っています。
ところが、何らかの原因でこのp53タンパク質自体に変異が生じることがあります。そうなると変異した異常なp53タンパク質はプロモーター領域に結合することができなくなり、正常のp53タンパク質の機能は失われてしまします。その結果、異常細胞のDNA修復やアポトーシスができなくなります。そればかりか、「MDM2タンパク質」が作られなくなり、変異したp53タンパク質を分解することができなくなるのです。これにより、変異したp53タンパク質は次々と増えていくことになります。このようにp53タンパク質が変異することによって、ブレーキもアクセルも故障した細胞は暴走増殖するのです。
このように多くのがん細胞に発現する変異したp53タンパク質を制御することできればがん細胞の増殖を抑制することができる可能性があるのです。
p53の変異はほぼ全てのがん種に発現しております。全てのがんにおいて、組織の免疫染色による変異したp53タンパク質過剰発現の頻度は50%以上の高頻度で出現しています。変異したp53タンパク質が存在すると、免疫機構が作動し抗p53抗体を産生します。p53抗体は変異したp53タンパク質のみをターゲットとしています。血清に抗p53抗体が出現する頻度は20~30%程度です。変異型p53タンパク質の蓄積に伴い、比較的早期の段階で抗p53抗体が出現します。
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