炭素数が6個未満の脂肪酸を短鎖脂肪酸と言います。酢酸(C2)、プロピオン酸(C3)、酪酸(C4)が代表的な短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸は腸内細菌による食物繊維の発酵分解にて生成されます。産生された短鎖脂肪酸は大腸粘膜上皮細胞のエネルギー源として使用され、一部は単純拡散によって全身に運ばれ、様々な働きをします。
短鎖脂肪酸の働き
大腸においては以下の機能があります。
①大腸のエネルギー源
大腸のぜん動運動を亢進させ、便秘を解消する。
②大腸のバリア機能強化
粘膜物質であるムチンの分泌を促し、大腸を有害物質から保護する。
③腸内フローラの維持
腸内のpHを低下させ、善玉菌を増加させ、悪玉菌を減少させ、腸内フローラを整える。
④ミネラル吸収促進
カルシウムやマグネシウムの吸収を促進する。
一方で、全身においては以下の機能があります。
⑤免疫機能の強化
制御性T細胞の活性化により、慢性炎症を抑制したり、アレルギー性疾患や自己免疫疾患を改善したりする効果があります。また制御性T細胞は組織修復を行うので、その活性化により、組織の修復力が上昇します。変形性質関節症、変形性股関節症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などの予防に役に立つようです。
細胞障害性T細胞の活性化により、ウイルス感染を抑制(風邪、インフルエンザ、ヘルペス、帯状疱疹、子宮頸がんなど様々なウイルス疾患)します。またがん細胞を障害します。
⑥肥満や糖尿病に対する効果
⑦肝臓でのエネルギー源
⑧肝臓での代謝に利用
大腸上皮細胞で消費されなかった短鎖脂肪酸は、門脈を経て肝臓に運ばれ、肝臓にて糖質代謝や脂質代謝に利用されます。肝臓で代謝されなかった酢酸は末梢組織に至り、エネルギー基質あるいは脂肪合成基質として利用されます。エネルギー消費として使われるか、脂肪合成に使われるかは全身のエネルギー収支に依存しています。また糖質が枯渇した場合には糖新生に利用されます。
大腸は単に水と電解質を回収するだけの器官であると考えられていましたが、短鎖脂肪酸を介して、エネルギー代謝や他の器官の機能に深く関与し、それのみならず神経系や内分泌系などを介して、全身に大きな影響を与えることがわかってきました。