運動によって疲労は回復するのでしょうか?
疲労はストレッサーに反応することにより、リン酸化elF2αが増加することによって生じます(ブログ:生理的疲労のメカニズム)。動物に使えるelF2αのリン酸化阻害剤は存在していません。一方で疲労の回復はリン酸化elF2αを脱リン酸化することです。生体には「GADD34」、「CReP」と呼ばれる脱リン酸化酵素があります。
elF2αがリン酸化されて、「統合的ストレス応答(ISR)」が作動した指標として、リアルタイムPCRで「ATF3」という転写因子のmRNAを測定すること(リン酸化elF2αを反映)が高感度に定量できるそうです。
この指標を用いて、疲労:elF2αのリン酸化指標(ATF3)と疲労回復力:elF2αの脱リン酸化の指標(GADD34 or CReP)の比率を「疲労回復指数」として、疲労を定量化しました。つまり、この値が増加するほど疲労は回復力が増加していると判断できるのです。
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座:近藤一博教授らは被験者に軽度の運動を1~3か月ほど継続してもらって、その後に「疲労回復指数」を測定したところ、運動をした群では疲労回復指数が上昇していました。軽度の運動によって適度な生理的疲労がもたらされたことにより、疲労回復力が増強されました。つまり、軽度の運動は疲労感を減少させることではなく、疲労回復力を増強することで生理的疲労を減少させるということを明らかにしました。
【疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた】近藤一博 ブルーバックス:講談社