ビタミンD血中濃度と脳梗塞発症リスクの関連性を検討した前向き研究に加えて、過去の脳卒中(脳梗塞以外の脳卒中を含む)発症リスクを検討した研究論文をメタ解析したアメリカのハーバード大学の論文です。
[方法] Nurses’ Health Study(NHS)において、脳梗塞を発症した女性464人と脳梗塞を発症していない同数の対照被験者におけるビタミンD血中濃度[25(OH)D]を測定し、ビタミンD血中濃度の上位3分の1群、中位3分の1群、下位3分の1群に分類しました。
[結果]多変量解析を加えたところ、下位3分の1群はオッズ比(OR)=1.49(95%信頼区間1.01-2.18, p=0.04)でした。つまり、ビタミンD血中濃度において下位3分の1群の人は上位3分の1群の人に比べて、1.49倍の確率で脳梗塞を発症しやすいということです。
これに加え、ビタミンD血中濃度と脳卒中の転帰との関連を検討した他の前向き研究6つをメタ解析しました。合計1214例の脳卒中症例を含むこれらの研究を統合した結果、下位3分の1群の上位3分の1群に対するリスク比(RR)=1.52(95%信頼区間1.20-1.85)でした。脳梗塞を明確に検討した2つの研究では下位3分の1群の上位3分の1群に対するリスク比(RR)=1.59(95%信頼区間1.07-2.12)でした。
このようにビタミンD血中濃度が高値になるにつれ、脳卒中の発症率は低下するのです。25(OH)D≧約23ng/mlになると脳卒中の発症リスクは減少し、用量依存的に低下していきます。
[結論]ビタミンD血中濃度が低値である場合に脳梗塞発症リスクは約1.5倍になりました。ビタミンD血中濃度を適正値に維持することは脳梗塞の発症リスクを低下させる可能性が示唆されました。
【25-Hydroxyvitamin D Levels and the Risk of Stroke:A Prospective Study and Meta-analysis】 Sun Q.et. al. Stroke. 2012 Jun;43(6);1470-7. doi: 10.1161/STROKEAHA.111.636910.
35年間の脳神経外科医として、こんなことを知らずに患者様を診療してきました(涙)。ごめんなさい。でも、仮にそれに気づいた今でも保険診療では脳梗塞予防のためにビタミンDは処方できません。なぜなら、ビタミンDの医薬品は存在しないからです。「活性型ビタミンD製剤」がありますが、これは「骨粗鬆症」の患者さんにしか、処方できないルールになっています。かつ、以前にもお話ししましたように(ブログ:ビタミンDの産生と代謝)活性型ビタミンD製剤では十分なビタミンDの効果を引き出せないのです。だから、自己責任のもとに自分で対応するしかないのです。それをお手伝いするのが「オーソモレキュラー栄養療法」です。脳梗塞予防のために使う医薬品としての抗血小板剤の処方を拒む脳梗塞患者はいないのに、ビタミンDサプリメントなんか誰も振り向いてくれない現実。全額自己負担しなければ対応できないし、「医薬品は効果があり、サプリメントなど効果が無い」と思っている先入観が邪魔をするのです。「サプリメントに効果が無い!」、それはあなたが効果の無いサプリメントを摂取しているからなのですよ(ブログ:医療用サプリメント)。