アディポサイトカイン 脳神経外科おたる港南クリニック

〒047-0003 北海道小樽市真栄1丁目6番1号

0134-65-7725

ブログ

アディポサイトカイン

 皆さんは、脂肪細胞と聞くと悪いイメージを持つ方が多いと思いますが、脂肪組織は私たちの身体にとってとても大切なものです。皮下脂肪は断熱材のように体温を維持し、寒さから身体を守ります。また内臓脂肪はクッションのように内臓を衝撃から守る働きがあります。昔から脂肪細胞はエネルギーの貯蔵庫であると言われ、皆さんが思う悪いイメージばかりのものではないということがお分かりいただけたかと思います。ここに加え、1994年に脂肪細胞が分泌する「レプチン」という生理活性物質が発見され、それ以降、脂肪細胞はホルモン用生理活性物質を分泌する内分泌器官でもあるという概念が確立しました。これらのホルモン用生理活性物質を「アディポサイトカイン」と呼びます。以後、現在までに50種類以上のアディポサイトカインが報告されています。つまり、脂肪細胞は単なるエネルギーの貯蔵庫のみならず、実は生体内における最大の内分泌器官だったわけです。
 脂肪細胞に中性脂肪が蓄積するとアディポサイトカイン分泌が変化して、それにより様々な内分泌的異常が起こり、代謝が変化することで肥満、糖尿病や脂質異常症、動脈硬化を惹起することがわかってきました。アディポサイトカインはこれらの研究において重要なターゲットとなっています。
 では主なアディポサイトカインを説明いたします。

レプチン
 レプチンは体内エネルギーバランスを調整する役割を担っています。視床下部の満腹中枢や、食欲促進因子である神経ペプチド(NPY)、アグーチ関連ペプチド(AgRP)などを抑制することで食欲を抑制する働きがあります。また、摂食行動を抑えるα-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)を活性化させます。代謝を上げる交感神経も活性化させます。さらに、ノルアドレナリン分泌を促進することで脂肪分解やエネルギー消費を増加させます(ブログ:リパーゼ)。特に女性においては、思春期の開始や生殖機能の維持にも関与しています。
 レプチンの分泌は日中低く、夜にかけて上昇し、0時前後に最高値となり、その後朝方にかけて低下します。このリズムは睡眠と密接に関連しており、睡眠の乱れがレプチン分泌に影響を与えることになります。レプチン血中濃度を調べるなら採血は早朝空腹時にすることが理想的です。
 脂肪細胞に脂肪が蓄積すると、レプチンは増加します。肥満者の体内ではレプチンが過剰に分泌されます。そうなると逆に、レプチンが脳に反応しにくくなる現象が起こります。これを「レプチン抵抗性」と言います。この状態になると食欲が抑えられなくなり、エネルギー消費も低下し、肥満は加速していくことになるわけです。

アディポネクチン
 アディポネクチンは脂肪細胞から特異的に分泌されます。脂肪細胞に脂肪が蓄積すると、アディポネクチンの血中濃度は低下し、脂肪が減少することで上昇します。他のアディポサイトカインは逆で、脂肪の蓄積により増加しますが、アディポネクチンは低下します。アディポネクチンにはインスリン感受性の向上、脂肪酸の燃焼促進、血管保護・抗動脈硬化作用、抗炎症作用、抗動脈硬化作用があるので、血中濃度が低下する脂肪の蓄積は大敵です。アディポネクチンは日内変動が乏しいので、採血時間に厳密な制限はありません。

腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor-α:TNF-α)
 TNF-αは主に免疫細胞にて産生され、炎症制御や腫瘍制御に機能します。一方で脂肪細胞からも産生されることがわかってきました。その血中濃度は肥満度やインスリン抵抗性と正相関します。TNF-αは骨格筋や肝臓でのブドウ糖の利用を抑制し、インスリン抵抗性を起こします。TNF-αとアディポネクチンはお互いに拮抗する関係にあり、TNF-αはアディポネクチンの分泌を減少させる作用があります。

レジスチン
 マウスでは脂肪細胞から分泌されるレジスチンですが、ヒトにおいては脂肪組織に誘導された単球・マクロファージ由来と考えられています。レジスチンの過剰分泌はインスリン抵抗性の一因と考えられています。メタボリック症候群、2型糖尿病に関連しています。

プラスミノーゲン活性化抑制因子(Plasminogen Activator Inhibitor-1:PAI-1)
 PAI-1は、凝固した血栓を溶解するシステムである線溶系において、プラスミノーゲンアクチベーターを抑制し、プラスミン生成を抑制し、線溶活性を低下させ、血栓形成を促進させてしまいます。これにより内臓脂肪量の増加が脳梗塞や急性心筋梗塞など血栓性疾患のリスクを高めることになります。線溶系内臓脂肪量とPAI-1血中濃度は正相関しますが、皮下脂肪量は相関しません。

アンジオテンシノーゲン
 アンジオテンシノーゲンは肝臓の他に脂肪細胞でも作られます。アンジオテンシノーゲンはレニンによりアンジオテンシンⅠに変わり、アンジオテンシン変換酵素によりアンジオテンシンⅡに変わります。アンジオテンシンⅡは強力な末梢血管収縮作用をもち、副腎皮質ホルモンであるアルドステロンの分泌を促進し、結果的に血圧上昇を起こします。

 善玉アディポサイトカインのアディポネクチンはインスリン感受性増加、抗炎症作用、抗動脈硬化作用がある一方で、悪玉アディポサイトカインはインスリン抵抗性、炎症促進、血栓形成促進、血圧上昇を誘導し、お互いに拮抗する作用があります。肥満細胞の肥大、脂肪の蓄積により、その分泌バランスが崩れてしまうと、肥満、糖尿病や脂質異常症、動脈硬化を起こすことになってしまうわけです。ですから、脂肪細胞に脂肪を蓄積させずに脂肪細胞の内分泌機能を正常に維持し続けることが健康に寄与する大切なことです。

外来受診ご希望の方
外来受診ご希望の方