NAMPT(ニコチンアミド・フォスフォリボシル転移酵素)により、NAM(ニコチンアミド)がNMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)に合成され、更にNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)へと変換され、サーチュインを活性化します(ブログ:NAD)。主にNMNを合成する酵素であるNAMPTの活性低下がNADの低下をきたし、老化や老化関連疾患を引き起こすことは抗老化研究の共通認識となっています。
当初は各臓器において、NAMPTがNMNを作り、それが血液中をめぐり、様々な臓器に分配され、NAD合成とサーチュインの活性化を起こし、各臓器の機能をコントロールすると考えられていました。ところが、研究が進むにつれて、新しい知見が示されました。
NAMPTについて、もう少し詳しく説明します。NAMPTには細胞内で働く「iNAMPT」と細胞外に分泌される「eNAMPT」があることがわかりました。
脂肪細胞内にあるiNAMPTはSIRT1によって脱アセチル化されると、「細胞外小胞(EVs:Extracellular Vesicles)」に封入されて、eNAMPTとして血液中に分泌され、全身の細胞に届けられていることがわかりました。eNAMPTはEVsの中に内包されていることが必要で、NAMPTを裸のまま添加しても細胞質には送り込まれないこともわかりました。
マウスとヒトにおいて、加齢にともなって、血液中eNAMPT量は減少し、哺乳類共通の老化過程に関与している可能性が示唆されました。若齢マウスと老齢マウスの比較においてeNAMPTは若齢マウスから精製したものの方がよりも高いNAD合成能を示しました。また、マウスにおいて、血液中eNAMPTの量が多いほど長生きする傾向にあったそうです。そこで、脂肪細胞にNAMPTを高発現させて、血液中eNAMPT量が維持できる老齢マウス(ANKIマウス)を作製したところ、老齢になっても様々な臓器のNAD量が高く保たれ、様々な抗老化作用を示すことが明らかになりました。
以上の結果から、eNAMPTはEVに内包される形で分泌され、血液中を循環しており、全身の標的細胞に送り込まれることによって、各細胞のNAD合成を賦活化し、抗老化作用を発揮することが明らかとなりました。
そこで、若齢マウスからeNAMPT内包EVを精製し、老齢マウスに投与した結果、老齢マウスにおいて、活動期の身体活動能力が顕著に上昇するとともに、休息期の活動はより低くなったようです。さらに詳細な解析により、加齢による臓器・組織の機能低下を防ぎ、寿命を延長させうる効果的な抗老化作用を示したとのことです。
【Extracellular Vesicle-Contained eNAMPT Delays Aging and Extends Lifespan in Mice.】Yoshida M.et.al Cell metabolism. 2019 Aug 06;30(2);329-342.e5. doi: 10.1016/j.cmet.2019.05.015.
【血液中を巡っているNAD合成系酵素eNAMPTが、哺乳類の老化と寿命を制御していることを解明-新しい抗老化方法論の開発に期待-】日本医療研究開発機構(AMED)プレスリリース
この話の中で、抗老化、健康長寿には、脂肪細胞が重要な働きを持っているということがわかります。体脂肪は敵とみなされがちですが、あまり減少させると老化を促進する結果になってしまう可能性があるということです。加齢と共に体脂肪が蓄積してくるというのは一つの生体防御反応なのかもしれません。中高年になって、アスリートのように体脂肪を極端に減らすのも考え物です。自分は腹筋を6つに割ることを目指して、精進してきていますが、再考しないとなりません(笑)。というか、できない言い訳としては十分ですね(笑)。以前からBMI(Body Mass Index=ヒトの肥満度を表す体格指数で[体重(kg)]/[身長(m)]2で計算される)と死亡率の関係において、BMIが高すぎても、低すぎても死亡率は高くなることが知られており、「ちょいメタ(ちょっとメタボリックシンドローム気味)」の方が長生きするというデータがありました。老化や寿命のコントロール機能を最大化する適正な体脂肪量が存在し、それが「ちょいメタ」の状況なのでしょう。
将来は若年者から高齢者にeNAMPT内包EVを移植したり、合成した活性の高いeNAMPT内包EVを高齢者に投与したりすることで、抗老化を実現できるかもしれないですね。こりゃ面白い。こんな研究をしてみたかった(笑)。盛りを過ぎた町医者のボヤキです。新進気鋭の若い研究者の皆様に期待しています。頑張ってください!