NAD 脳神経外科おたる港南クリニック

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NAD

 代謝とは生体が生命活動を維持するために常に行われている化学反応です。この化学反応において、触媒として機能するタンパク質を「酵素」といいます。この酵素作用の発現に必要な補助するタンパク質を「補酵素」、ビタミンやミネラルを「補因子」といいます(ブログ:質的栄養失調)
 特にビタミンB群は、生体内で様々な酵素の活性発現に必要な補因子として重要な役割を果たしています。補因子が不足すると酵素活性が低下し、代謝の低下に引き続いて細胞生命活動の低下をきたすわけです。

 ビタミンB3(別名:ナイアシン)には2つの種類があります。「ニコチンアミド(別名:ニコチン酸アミド、ナイアシンアミド)」と「ニコチン酸(別名:ナイアシン)」です。名称が複数あり、混乱することがありますので、最初に明記しておきます。ここでは赤色のものに統一します。ここで誤解のないように!タバコに含まれている「ニコチン」とは全くの別物です(笑)。

 主にビタミンB3(ニコチン酸、ニコチンアミド)から合成される「NAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)」という物質があり、生命維持に欠かせないエネルギー産生において重要な役割があります。

 
 NADは体内で合成されていますが、加齢に伴って、NADが低下していきます。NADの低下は細胞の機能低下や、体内組織や臓器の機能障害をもたらすことなど、老化関連疾患を引き起こすことに関連があることがわかっており、抗老化研究の分野ではNADの低下が老化の根本的なメカニズムの一つと認識されています。
【Age-associated changes in oxidative stress and NAD+ metabolism in human tissue.】Massudi H.et.al. PloS one. 2012;7(7);e42357. pii: e42357.
 抗老化のためにはNADを増加させることが良さそうですね。ところがNADは細胞膜透過性が無く、哺乳類では輸送手段としてのトランスポーターがありませんので、細胞内に入っていくことができません。従って、栄養素としての直接的な取り込みはできません。そこで、NADの前駆物質を補充して、体内で合成を促すことになります。では、NADはどのように合成されるのでしょうか?

哺乳類におけるNADの生合成経路は3つあります。
Salvage(サルベージ)回路(いわゆるリサイクル回路です)
 出発物質となるのは食事から摂取したNAM(ニコチンアミド)です。ニコチンアミドからNMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)を経由し、NADが合成されます。使用後のNADは分解されて、再びNAMになります。このように使用後は再利用されます。これがメインの合成系です。
Preiss-Handler(プレイス・ハンドラー)経路
 こちらはNA(ニコチン酸)を出発物質として、NAMN(ニコチン酸・モノ・ヌクレオチド)、NAAD(ニコチン酸・アデニン・ジヌクレオチド)を経由し、NADが合成されます。
de novo(デノボ)経路(別名:キヌレニン経路)
 必須アミノ酸であるトリプトファンを出発物質として、キノリン酸を経由して、NAMN(ニコチン酸・モノ・ヌクレオチド)を合成し、これがPreiss-Handler経路に合流し、NADが合成されます。
 その他にNR(ニコチンアミド・リポシド)という物質も別経路でNMNになります。

 特に哺乳類ではサルベージ経路がメインでNADレベルの維持に非常に重要です。では、合成されたNADはどのような機能をするのでしょうか?
NADの機能
①サーチュイン活性化(ブログ:サーチュイン遺伝子
 私たちのDNAは、私たちが普通に日常生活を送っている中で様々なものに曝露され、気が付かないうちに汚れがついてしまっています(ヒストンタンパクアセチル化)。それが老化の原因となり、様々な疾患を引き起こすことになります。サーチュイン遺伝子から作られたタンパク質「SIRT1」はその汚れをクリーニングしてくれます(ヒストンタンパク脱アセチル化)。
②PARPs(ポリ ADP-リボースポリメラーゼ)の反応を促進
 DNAの損傷修復に関わる酵素です。
③CD38/157の活性化
 NADをNAMに分解する酵素で、これにより再び、ニコチンアミドへと分解され、NADを過剰にしないようにしています。
 NADの低下は、細胞の機能障害を生じさせ、老化関連疾患の発症に重要な影響を及ぼします。NADを維持することにより、老化のスピードを抑制したり、逆行させて若返りができたりする可能性があります。

もういちど、NAD合成のメインであるサルベージ回路をみてみましょう!食事から摂取したNAMはNAMPT(ニコチンアミド・フォスフォリボシル転移酵素)を触媒としてNMNになります。NMNはNMNAT(NMN・アデニル転移酵素)を触媒として、NADに合成されます。
 NAD低下の主な原因はこのNAMPTの活性低下であることと、NAMPT活性を上げることにより、SIRT1の活性が上昇することがわかっています。従って、NAMの補給は効率的ではありません。前述したNRは経口摂取ではほぼ100%が腸内細菌によって分解されてしまうため、効果的ではありません。そこで、候補として躍り出てくるのは「NMN」なのです。

参考文献:【開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線】今井眞一郎 朝日新聞出版
参考文献:【NMNの秘密】澤邊昭義 栄養書庫