今回は自分が注目する「ヤナギランエキス」という原材料について解説します。
ヤナギランとはアカバナ科ヤナギラン属の多年草で、主にヨーロッパや高山帯に自生しています(図左)。ヨーロッパでは以前より前立腺肥大や頻尿改善のための薬用ハーブとして使われています。ヤナギランエキスには「エノテインB」という成分が含まれています(図右)。
イタリア ナポリ大学のEsposito Cらによる研究論文です。軽度~中等度の前立腺肥大症の既往歴があり、試験前・中に、前立腺肥大症に対する服薬をしていない成人男性128名を対象にした二重盲検ランダム化プラセボ並行群間比較試験を行いました。ヤナギランエキスは500mgを使用量としました。ヤナギランエキス群(n=70)、プラシボ群(n=58)にランダムに振り分け、外来にて4回(t0:ベースライン、t1:15日後、t2:2か月後、t3:6か月後)において、国際前立腺スコア(IPSS)、排尿後残留尿量(PVR)、夜間排尿回数を評価しました。
国際前立腺スコア(IPSS)に関しては、ヤナギランエキス群では試験開始6か月後には開始時より2ポイント有意に減少しました。一方で、プラセボ群ではわずかに増加しました。
排尿後残尿量(PVR)は、試験開始6か月後には膀胱内の残尿量が少ない被験者の数が有意に増加し、残尿量が100mlを超える被験者の割合が減少したことが示されました。プラセボ群では逆のパターンになりました。
夜間排尿回数0回の被験者の数は、試験開始6か月後にはヤナギランエキス群で21.7%増加し、夜間に1回以上排尿した被験者の数は減少しました。プラセボ群では夜間排尿回数0回の被験者の数は10.2%減少しました。
ヤナギランエキスを服薬することで、前立腺肥大による症状は改善し、夜間頻尿回数が減少し、同時に中途覚醒が減少し、睡眠の向上が期待できることが示唆されました。
【Epilobium angustifolium L. extract with high content in oenothein B on benign prostatic hyperplasia: A monocentric, randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial.】Esposito C. et.al Biomedicine & pharmacotherapy 2021 Jun;138;111414.
「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]2024年12月アップデート」修正 21 p.170~172によると、「また最近の報告では,ヤナギラン(Epilobium angustifolium L)の抽出物((EAE)は,前立腺肥大症治療のサプリメントとして知られており,前立腺肥大症による症状の改善を,排尿後残尿量 (PVR),前立腺体積 (PV),PSA,IPSS などで評価している。治療前→治療開始後6カ月の夜間頻尿回数は,プラセボ群 (n=58),EAE 群(n=70)は,それぞれ,1.1±0.1→1.3±0.1,1.2±0.1→0.8±0.1 であった。GLMM (generalized linear mixed models: 線形混合モデル)によると,EAE 投与により,夜間排尿回数は有意に減少したとしている。」と、この論文を根拠にしたコメントが記載されました。ヤナギランエキスは、非常に優れた抗酸化作用、抗炎症作用により、男性の前立腺肥大症の症状ばかりでなく、女性の過活動性膀胱や真菌尿路感染を改善する報告があります。また、悪玉男性ホルモンであるジヒドロテストステロンの合成を阻害する報告(男性型脱毛に期待!)、ウロリチン合成増加によるオートファジー活性化が期待できる報告もあります。