皆さんは、健康診断や医療機関で受診された後の診断結果で血液検査の結果を目にしたことが多くあるでしょう。検査結果の横に「基準値」と書かれた数字が記載されていますが、その範囲に自分の値が入っていれば、正常であると解釈し、ほっとするでしょう。今日はこの「基準値」について解説します。
1992年にNCCLS(National Committee for Clinical Laboratory Standards)が従来の「正常値」という言葉から「基準値」という表現に変更することを提唱しました。これは個々の検査結果が多くの条件によって変化するため、正常か異常かを判断することができないということを意味しています。
血液検査の基準値の決定には大きく2つあります。
①医学的ガイドラインに基づく決定
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」にて、疫学的調査を根拠に動脈硬化による疾患を予防するため、コレステロールや中性脂肪の基準値が定められています。また、同様に日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン」には診断やコントロール基準としての血糖値やHbA1cの基準値が定められています。これらは日本における基準なので、全て統一されています。
②統計的手法により決定
それ以外は統計的な手法で決められています。本来、基準値は厳しい条件を満たした統計的手法により決められるべきです。統計処理する母集団は性別、年齢など様々な条件を統一した多数の確実な健康者の集団であることが必要です。そして、標本数が多いことが必要です。
与えられた母集団が何らかの分布(一般的には正規分布)に従っているという前提がある場合を「パラメトリック手法」と言います。一方で、与えられた母集団が何らかの分布に従っていう前提がない場合に使う手法を「ノンパラメトリック手法」と言います。当然、「パラメトリック手法」を用いて、標本数が多いほど精度の高い結果が期待できます。
正規分布は統計学を理解するために最頻度で使われる確率分布の一つです。正規分布では平均値=最頻値=中央値が一致します。そして、それらを中心にして左右対称で、分散が大きくなると曲線はゼロに近づく漸近線となります。つまり、きれいな富士山型となります。そのためには様々な除外因子や患者背景を一定の基準で統一しなければなりません。「ノンパラメトリック手法」を用いる場合には精度を上げるために標本数を大きくすることが大切です。
ですが、実際はそのような過程を経て決められているのではなく、皆さんが血液検査データを見ている時の「基準値」は以下のように決められて、表示されています。
母集団:検査会社の社員
標本数:数十人
この実情を説明すると、母集団であるその会社の職員の「健康」である定義は、休まずに普通に勤務していることだけでよく、その他の因子を全く検討していません。また、標本数の規定はないので1000以上のデータで出すべき数字をたった数十人のデータで算出しているので、正規分布に従っているとは到底思われないのです。
この正規分布に従わない母集団を正規分布と仮定して、その平均値と標準偏差を求め、その上下2.5%を除外したものが「基準値」として、皆さんの血液検査データの横に記載されているのです(笑)。つまり、標本数の少ない「ノンパラメトリック手法」です。自分はオーソモレキュラー栄養療法をご指導いただいている先生からこんなことを教わって、びっくりしました(笑)。
皆さんの血液検査の測定値の横に記載されている値はこのような方法で決められているのです。そして、その範囲から離れている場合には「↑ or ↓」が記載されているだけなのでそれを鵜呑みにして一喜一憂することは無意味なのです。
例えば女性の「フェリチン」。当院の検査センターでのフェリチンの基準値は「女性:5~157ng/mL」と記載されています。しかし、オーソモレキュラー栄養療法においては80ng/mL以上と考えられています。このズレは保険診療医とオーソモレキュラー栄養療法医の認識の違いになっていて、一般の医療機関で保険診療医が判断すると「正常」と判断されますが、オーソモレキュラー栄養療法医が判断すると「不十分」となるわけです(ブログ:だまし絵)。「末武はこう言ったけど、別の医療機関の医師には正常であると言われた。」となってしまうのです。
オーソモレキュラー栄養療法で用いている判断値は臨床判断値であり、病態や症状を改善させるために必要な代謝を得るための値です。それらは統計的な処理をしたのもではなく、正常か異常かの境界をつけるものではなく、栄養素の不足を判断するものでもないのです。
今回のブログを読んでいただければオーソモレキュラー栄養療法というものを理解していただく一助になると思いますがいかがでしょう。