ワシントン大学今井眞一郎教授(抗老化研究のパイオニア)は個体レベルで老化を引き起こす仕組みを説明するために、2009年に「NADワールド」という概念を提唱しました。2016年にバージョンアップして、「NADワールド2.0」としました。
脳の視床下部が老化のコントロールセンターであることがわかりました。視床下部から骨格筋をコントロールする信号を出し(交感神経系?)、神経筋接合部の構造と機能を保つことが筋肉を若く保つことに重要であるとわかりました。骨格筋はマイオカインと呼ばれるホルモンのような因子を分泌して、全身の細胞に視床下部のシグナルを伝えるメディエーター(仲介役)としての役割をしています。
一方で、脂肪細胞から分泌されたeNAMPT(ブログ:eNAMPT)を含む細胞外小胞(EVs)が視床下部でのNAD合成をコントロールし、脂肪組織が視床下部を支えるモジュレーター(調整役)として機能しています。
このように、各組織においてサーチュイン遺伝子(ブログ:サーチュイン遺伝子)の活性化により発現したタンパク質であるSIRT1と脂肪細胞から分泌されたeNAMPTによって、視床下部、脂肪組織、骨格筋の3つが相互にコミュニケーションをとることで、NADによる生体の安定性に寄与しており、それらの変化と崩壊が老化や寿命を規定するのです。
全身のNAD合成量を維持するためにはeNAMPTによるNADワールドで説明される経路とNMNが小腸にてトランスポーターを介して吸収され、全身に運ばれる経路があります。これらは共同してNAD合成量の維持に務めています。NADが生体にとって最重要なので、それを低下させない何重ものも仕組みが存在するのでしょう。もしかしたら、これ以外にも他の経路があるかもしれないですね。
いずれにしてもこの先の研究の発展が楽しみです!
【The NAD World 2.0: the importance of the inter-tissue communication mediated by NAMPT/NAD+/SIRT1 in mammalian aging and longevity control.】Imai S. NPJ systems biology and applications. 2016;2;16018. doi: 10.1038/npjsba.2016.18.
参考文献:【開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線】今井眞一郎 朝日新聞出版